日本人の若手リリコ・レッジェーロソプラノで、現在注目度が高い人を挙げるとすれば
高橋 維
鈴木 玲奈
の二人がまず挙げられると思うが、
個人的には。高橋維には一流になれる可能性を感じはじめている。
高橋の歌唱について書く前に、
まず簡潔に鈴木について触れておくと、
第86回日本音楽コンクールでの優勝から一気に世間の注目を集め、それから勢いに乗っているソプラノ歌手
ちなみに映像は以下のCDのもの
AMAZONで40秒程度各曲を試聴できるので、是非興味のある方は聴いて頂きたいのだが、
この人、何語の曲を歌っても言葉の緊張感が同じで、表現の引き出しが全然ない。
偶然ラジオでリゴレットとハムレットと後宮からの逃走だったかのアリアを聴いたことがあったが、
とりあえず技巧があるだけで、言葉に対する感性が決定的に足りない印象を持ったのだが、
やはりここで試聴してもそれは変わらなかった。
是非とも鈴木玲奈には、イタリア古典歌曲なんかを歌って、どの程度の演奏が出来るのか聴いてみたいものである。
一方の高橋
実は、夜の女王を初めて聴いた時は特に印象に残らなかったのだが、
今日偶然ラジオで高橋のRシュトラウスの歌曲を聴いた時に全く違った印象を持った。
物凄く言葉を大切に扱う歌唱と、コロラトゥーラを得意としながらも、
決して技巧ありきで歌っている訳ではないところに鈴木との大きな違いを感じた。
大学院でもリートを勉強していて、現在ウィーンに留学中、
更にRシュトラウスが好きとなると、
モーツァルトを歌っている時とは明らかに違うものが伝わってきたのは当然かもしれない。
だが、意外と好きな作曲家の作品だから上手く歌えるという単純なものではなく、
声質と作曲家の表現手法が一致せず、好きだけど歌えない曲の方が大抵は多い。
このインタビューを見ても、声ではなく表現をより重視していることがわかる
こちらは2017年の演奏のようだが、今年の演奏では見違える(聴き違える)ほど言葉の表現力が良くなっていた。
残念ながらYOUTUBEには肝心のRシュトラウスの演奏がないため、
ここで詳しく演奏を検証することができず、
歌唱を検証する記事としては盛り上がりに欠けることは最初にお詫びしておきたい。
この演奏ではカバレッタに入る前までの部分でのレガートや言葉の出し方がまだまだな感があるが、
録音環境も含め、現在これより全然上手くなっている。
だが、この頃の演奏から現在に至っても改善しきれてない部分があるので、
そこを今後どう乗り越えていけるかで、一流になれるかどうかが決まってくると思われる。
この演奏は至らない部分がかなり露呈しているので、この演奏で今後改善が必要な部分を挙げておきたい。
ハイFを出した後の歌詞
「So bist du meine Tochter nimmermehr」
この部分で響きが変わり過ぎている。
問題は音程によって響きのポジションが変わっていることではなく、
全体的に鼻に掛かり易い傾向があること。
コロがっている時は良いのだが、フォルテで高音を出すと喉に負荷が掛かった声になってしまうのも勿体ない。
ただ、そこは改善されていたように感じた。
苦手な母音でいけば”i”母音は完全に正しい響きではない。
シュトライヒの演奏と比較して欲しい
リタ シュトライヒ
声や技巧は置いといて
「 nimmermehr」の響きによ~く注目して欲しい
高橋(0:56~1:23)
シュトライヒ(0:55~1:21)
”n”や”m”は響きが前に集まり易いので、よく発声練習で使われる子音だが、
残念ながらそこが落とし穴。
「meine Tochter 」の「meine 」から含めて
一々これらの子音を必要以上に強く発音すると、全部にアクセントがついたようになったり、
必要以上に鼻へ息が流れたりするので、余計に鼻声っぽくなったりレガートで歌えなかったりする。
シュトライヒは適当に言葉を扱っているのではなく、合理的に歌っているのである。
現在はもっと言葉をはっきり出す歌い方が主流だが、ハッキリ発音することと、強く発音することはまた別で、
スチューダーの演奏はもっとその辺りが計算されている。
チェリル スチューダー
高橋の鼻に入ってしまうという欠点は、単純に発声的な問題と言うより、
言葉をはっきり発音しようとした結果、子音に影響されて顕著になってしまっている可能性があると言うこと。
発音に影響されない息の使い方、唇の使い方を研究することで、もっと高いレベルの演奏ができるようになると思うが、
如何せん、私の経験上ウィーンに留学して上手くなった歌手があまりいない。
誰とは言わないけど、それこそ毎コンで非常に若くして優勝した方とかね。
さて高橋はどんな歌い手になるのか楽しみだ。
自分の声を冷静に分析できる賢さがある歌手なので、
全く声に合わないレパートリーを歌って壊れる心配がなさそうなのは良いことだ。
もう少し検証に向いた音源があればよかったのだが、
また今度、生で聴いた時にでも、高橋に関する情報はアップデートしていく予定でいる。
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